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王妃のための失われた王国17-復興、そして同窓会-

2024年
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王妃が国政に復帰してから、また数年が過ぎた。王妃は今では皇太后と呼ばれるようになっていた。皇太后はかつての経験と持ち前の行動力で手腕を発揮して、国王ヒソップをサポートして様々な問題点をクリアしていった。混乱を極めていた国内の情勢は徐々に落ち着きを取り戻し、それに伴い皇太后と国王ヒソップに対する国民の支持も高まっていった。

アリゼの元に兄イルファンからの手紙が届いたのはその頃だった。

親愛なるアリゼ

ずいぶんとご無沙汰しているね。その後、ご家族ともに元気に暮らしているだろうか?俺から手紙が届いてさぞかし驚いているだろう。おそらく、船が難破した事はそちらにも伝わっているだろうから、ひょっとしたら亡霊か何かが手紙を書いていると思われるかも知れないな。

冗談はさておき、数年前に俺の船は大きな渦潮に巻き込まれて難破して名も知らぬ小さな島に座礁した。それでも運良く島の人達に助けられ生き延びることができた。そして小さな船を借りて交易を繰り返し、儲けた金で自分の船を買ってようやく元いた国に帰ることができた。

ただ積み荷を全て失ってしまったので、その補償の問題もあり頭を抱えていた。国王からはさぞかしお叱りを受けるかと覚悟をしていたが、全く予想もしていなかった出来事が起きた。国に帰ると国王からは一切おとがめはなく、補償も特例として免除された。その代わりにある国を復興するようにと王命を受けた。それが何処の国か解るか?俺たちの【お国】だよ。

お前も知っての通り【お国】は大国同士の紛争で廃墟となって、今は無法地帯になっている。ところが突然、和平が結ばれて共同の自治区として再興されることになったようだ。俺にその統治者になって国を復興させろと言ってきた。なぜ急にそんな事になったかは、極秘事項なのか詳しいことは教えて頂けなかったが、どうも俺達を追い出したろくでもない王が死んで、跡を継いだ王が俺の事を強く推挙したらしい。向こうは知っているかどうかは解らないが、俺達にとってはいわば義理の弟にあたる人だ。

俺が豪商として名を馳せていたことが一番の理由らしいが、どうもそれだけでは腑に落ちない。何しろ俺は貴族ではなく、ただの商人にすぎないんだからな。だからこの件には、どうもあの人が絡んでいる気がしてならない。噂によると今は皇太后として国政に関わっているらしいしな。

ただ、あの人は決して自分の名前は出そうとはしないし、俺に謁見を求めても来ない。あくまでも裏方の存在でいたいようだ。俺は、この任務を引き受けるかどうか正直迷った。あの人の操り人形となって働かされるのはごめんだと思ったからだ。それでも結局は引き受けることにした。それは、お前になら解ってもらえると思うが、生まれ故郷を自分の手で復興できるという強い想いには勝てなかったからだ。

あの美しく、豊かだった国。季節ごとに様々な花が咲き乱れて、たくさんの果物が実っていた。鹿やウサギがあちこちにいて、家族で一緒に遊んだ小高い丘。天気の良い日には塔のてっぺんから四方が見渡せ、水平線に夕日が沈んでいくのが見られたお城。街では子供達が駆け回って遊び、市場や商家が建ち並び、夕暮れ時になると村娘達が踊っていた賑やかな街並み。

再びこれらを取り戻す事が出来るとしたら、こんなにやりがいのある仕事はあるだろうか。もちろん復興には、とてつもない労力と長い年月がかかるだろう。何年、いや何十年かかるか解らない。でも俺は生涯をかけてこの任務をやり遂げたいと思った。それに元々、俺は何もないところから何かを作り上げていくことが好きなんだ、性に合っているんだな。

そして復興が終わったら、お前にも是非【お国】を見に来て欲しい。もちろん、バハリさんやルイカさんやアイニも連れてな。また家族を離ればなれにするのは忍びないからな。いつになるか解らないが、目処が立った頃に必ずお前とご家族を迎えにいく。その頃には、もっと速い船が出来ているから、【お国】に来るのにそれほど時間はかからなくなっているだろう。

それとここから先は、俺の馬鹿げた妄想だと思って聞いて欲しい。復興が終わったら、真っ先に招待したい人達がいる。それはお前の家族と父様とその家族、そして、あの人だ。おかしいだろ?あの人をあんなに毛嫌いしていた俺がこんな事を考えるなんて。そもそも、招待しても来てくれるかどうかも解らないのにな。

仮に奇跡的に全員が揃ったとしても、仲違いしていた友人達が久しぶりに集まった同窓会みたいに、ギクシャクして気まずいものになるかもしれない。それでも俺は、気がつくと勝手に想像してしまうんだ。あの小高い丘までピクニックに行って、ごちそうを食べながら美味い酒でも飲んで、皆で笑いながら思い出話を出来たらさぞや楽しいだろうなと。

これまで皆、色々な事があり、裏切られ、失意してどん底まで落ちて泥水をすすりながら生きていかなければならないような時もあった。それを全部無かったことにするなんて、できないだろう。だから俺達がまた家族に戻ることは決して無い。それでも、それぞれが精一杯あがき、苦しみながら生き延びてきた。その努力をたたえ合い、今、生きている喜びを分かち合う事は出来るんじゃないかと思う。それができれば、これ以上の事はないんじゃないか。

もちろんお前や父様やあの人がどう思うかは解らないから、無理強いはしないよ。それに復興が終わるまで、父様やあの人が生きているという保証もない。でも、もしその時が来たら、この馬鹿げた妄想の事を考えてみてくれないか。

追伸 
これからお前の事はヒースではなくアリゼと呼ばせてもらう。俺もテリュースとは名乗らない。もうお互い、新たな人生を生きているんだからな。最後にお前がご家族とともに末永く幸せであり続ける事を願っている。

イルファンより愛をこめて

兄からの突然の手紙はアリゼの心を激しく揺さぶった。手紙が擦り切れるほど繰り返し読み返しては、止めどなく涙が流れた。ルイカに連れられて教会に行き、兄の無事を祈った日の事が思い出された、そして何よりもあの美しい故郷が再び蘇るかも知れないと思うと歓喜に震えた。

アリゼは、家族全員の前で手紙を読み、内容を伝えた。ルイカも涙ぐみながらアリゼと手を取り合って喜んだ。
「生きていたのね、お兄様!本当に良かった。それから貴方の故郷も蘇るのね。」
「ルイカ、兄さんから迎えがきたら、家族みんなで【お国】へ来てくれないか?君たちにも見せてあげたいんだよ、僕が生まれ育った故郷を。本当に美しくて豊かな国だったんだ。」

「もちろんよ。バハリもアイニも一緒にね。」
それを聞くとバハリは少し困惑した表情を浮べた。
「イルファンさんが生きていて本当に良かった。でも、俺は【お国】に行くのは遠慮しておくよ。せっかくの家族の再会に水を差したくないからな。」

それを聞いたアリゼはバハリに真顔になってこう言った。
「バハリ、勘違いしないで欲しい。俺の家族はもうここ全員揃っているよ。だからこれは兄貴も言っているように同窓会みたいなものなんだ。それに俺だって育ててくれた父様をみんなに紹介したいんだよ。」
「やめてくれ。父様は照れくさいって言っただろ。せめて親父にしてくれ。」
「ははは、解ったよ。でも無理強いはしないけど、その時は考えておいてくれないか。」
「そうよ、どうせ行くのなら家族一緒でなきゃ、私も嫌よ。ねぇ父様。」

ルイカもアリゼに合わせて笑顔でそう言うと、バハリは諦めたようにため息をついた。
「ルイカ、お前もか…。解ったよ、考えておくよ。」

「僕も父様が生まれ育った故郷がどんな所だったか見てみたい。父様は王子だったんだよね?すごいなぁ、考えただけでワクワクするよ。お城の中ってどんな感じだった?やっぱり広くて天井も見上げるくらい高くて、さぞや豪華だったんだろうね。綺麗なドレスを着たお姫様や貴族達を集めて、見た事も無いようなごちそうを並べてダンスパーティーなんかもやってたの?ねぇ、行く前に僕に少しでもいいから聞かせてくれないかな?」
今度はアイニが溜まっていた気持ちを抑えきれなかったかのように喋りだした。アリゼが王子だった頃の暮らしに興味津々だったようだ。おそらく今までは遠慮して聞くのを我慢していたのだろう。アリゼはルイカの方をチラッと見て、笑みを浮べて頷いたのを確認して、よし、アイニにも話をする時がきたんだなと思った。それからアリゼはゆっくりと懐かしい故郷の情景を思い浮かべながら語り始めた。

「昔々、遠くて広い海を渡った所にそれはそれは小さな王国があったんだ。お城は大きくて立派だったんだけどその国の土地は、お城のてっぺんから見下ろすと国境が四方に見渡せるくらいの広さしかなかったんだけど…」

アイニは目をキラキラさせて、憧れていた王子の世界の話にうっとりと聞き入っていた。

「アリゼ、どうだい?最後はみんな幸せになれただろ。これで満足かな?」
僕はそう呟いて、ノートパソコンを閉じた。これで王妃の話は完結する。でも僕達の話はまだ終わってはいなかった。母が危篤になったと兄から連絡があったのは、それから数日後の事だった。

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