白く見えるカラス 不良少女白書 さだまさし Dearにっぽん  | ねじまき柴犬のドッグブレス

白く見えるカラス

2023年
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NHKの「Dearにっぽん」という番組で「人生に寄り添い、本を選ぶ古本屋」を紹介していているのを見た。老若男女さまざまな悩みを持つ人達から依頼を受けて、28才の若い女性店主が依頼者はどういう人なのか、どんな本を選べば心に寄り添えるのか思いを巡らせて自分を重ね合わせながら、本を選んで送ると言う内容だった。

依頼者の方のエピソードにも感慨深い物があったが、僕の心に残ったのは、彼女が店主になるまでのいきさつについてだった。番組の中では、特に大学生の時に人間関係に悩んでおり、人が良いと思ったものを良い思っていないのにそう言わなければならない事が多く辛かったと語っていた。

そして卒業後は本屋にいったん就職してから独立をされたという事だった。話の中で村上春樹さんの「ノルウェイの森」の一説に感銘を受けたという話も出てきたが、僕の中では自然と思い浮かんだのは、さだまさしさんの「不良少女白書」という歌だった。下記がその一節。

人には黒く見えるカラスが自分には白く見えてしまう
黒く見ようと努力したのに人は大声で聞いてくる
何が正しくて何が嘘ですか?
100じゃなければ0ですか?

この歌は「2年B組 仙八先生」というドラマの挿入歌として流れていて初めて聞いた。当時僕はまだ中学生だったが、当時の自分の家庭環境なども影響して、かなりガツンと心に響いた歌だった。でも同時にどうしても友達にはこの歌が好きだとは言えなかった。

別の歌詞の一節に
居直ることが勇気だなんて自分に甘えるのはおよし

というような少しお説教をされているように感じる部分があり、当時は素直に受け入れる事ができなかったのかもしれない。逆にそれだけ刺さっていたという事も言えるけど。

久しぶりにこの歌を思い出して、ずっと僕も白いカラスを黒く見ようと努力してきたんじゃないか、そして、今も多かれ少なかれそうなんじゃないかと感じた。今、世界的にジェンダーレスのような、いわば多様性を認めていこうという意識があり日本にも広がりつつあるようには思う。ただ同時に社会生活では協調性というものも求められる。例えば恋人や友達に「この服はいいよね?」「この店のランチは美味しいよね?」と言われて、なかなかそうは思わないとは言えない。それが稀な事ならいいけど頻繁に起こるのならもう人間関係は成り立たないだろう。だから我慢をして同意をしてストレスが溜まる。仕事の場合、それが顕著かもしれない。特に会社員の場合は、自分の中で明らかに「NO」と思っている事も「YES」と言わざるを得ないときが多々ある。

協調性は確かに必要なものだろうけど、あまりにも価値観や感性のベクトルが違う人にとっては一般的なものに合わせていくことはとても辛いことだろう。圧倒的な才能や存在感を持っている人は、逆に周囲に特別な人として認められて、影響を与えたりリスペクトされたりするんだろうけど、それはごく限られた人達だけだ。

自分に正直に生きるのは本当に難しい事だ。周りにどうしても合わせないと逆に自分が精神的に持たない時もある。それでも白く見える自分を否定してしまうと、感覚がどんどん麻痺してきて自分自身を見失ってしまう。歌詞の最後にあるように、なぜ好きなのか、嫌いなのか解らなくなる。自分にとって何が正しくて何が嘘なのか解らなくなる。

僕はおそらく平均的には灰色くらいに見えていたから、今までなんとか生きてこられたのかもしれない。だから白く見えていた人の人生の大変さは推し量れない。だからこそ改めて気を付けたいと思う事はカラスが白いって言ってしまう人を嘲笑したりしない事。その辛さが解るし、それは必ず自分に跳ね返ってくると思うので。そんなの当たり前だろうって言われるかもしれないが、自分の言動を振り返って考えてみると自分でも気がつかずにそうしている事もあったから。

たまに僕もカミングアウトして社会からドロップアウトしてでも正直に生きて行けたらもっと違う人生があったんじゃないかと、今でもふと想像してみる時がある。ホームレスになっていたかもしれないし、どこかの寺の坊さんになっていたかもしれないし山小屋や牧場みたいなところで黙々とそれでも楽しく働いていたかもしれないけど。

その勇気がなかったのが半分、自分で選択したのが半分。またそもそも生きていくのに精一杯で選択肢自体がある事にも気がなかったと言う気もする。ただもし次の選択肢があるのなら、その時にカラスが本当は何色に見えるか、目を凝らして判断したいと思う。

最後に余談だけどカラオケが流行りだしてから、歌おうと思った事が何度かあったけど、どうしても歌えなかった。場がしらけそうだったし、何より心に刺さってしまい楽しんで歌えないなと思ったから。そのせいか一人カラオケでも未だに歌っていない。どうやらこの曲は僕にとってカラオケで歌うような種類のものではないようだ…。(^^;)

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