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やんちゃな王子のための失われた王国 2-王の追放-

2023年
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「昔々、遠くて広い海を渡った所にそれはそれは小さな王国があったんだ。お城は大きくて立派だったんだけどその国の土地は、お城のてっぺんから見下ろすと国境が四方に見渡せるくらいの広さしかなかったんだ。」
僕は、ストーリを思い浮かべながらたどたどしく話を始めた。

「こっきょうって何?」
「国境っていうのは、国と国の境目の事だよ。例えば颯太が住んでいるのは××市だよね?でもたまに日曜日に車に乗ってレストランにハンバーグを食べに行く事があるだろ?そこは○○市になるんだ。それと同じで、市と市の境目があるように国にもそういうのがあるんだよ。これでわかるかな?」
「うん、大丈夫。」
「そうか、良かった。ごめんな、これからは颯太にも、わかりやすくお話しするね。」

僕がそういうと颯太は首を左右に振って
「あんまり、そういうの気にしなくていいから続けて。」
と少し意地を張るような言い方をしたので、僕は少し笑いそうになるのをこらえながら話を続けた。

「その国では1年中、暖かくてたくさんの種類の果物が実っていた。西の方には海にもあったから、お魚や貝だっていっぱいいた。土地も豊かで小麦やトウモロコシなんかもたくさん収穫できたんだ。だからその国の人達はいつも美味しいものをお腹いっぱい食べられてとても幸せに暮らしていた。お腹いっぱいになるとみんな、ご機嫌になってケンカなんかしないだろ?そして王様はとても頭のいい人で、自分たちの国が小さいのをわかっていたから、隣の大きな国とケンカ、つまり戦争なんかしないように、たくさんの贈り物をしていたんだ。例えば食べ物とか宝石みたいなものをね。」

「それは、ちょっと弱虫なんじゃない?王様としてはイゲンがないんじゃないかな?」
颯太にそう言われて僕は答えに詰まってしまったが、なんとか王様の気持ちがわかってもらえるように説明しようと思った。

「例えば、急に大きな国が攻めて来ちゃったらどうする?小さい国には兵隊さんも少ないし武器も古い物しかないんだ。戦争に負けて占領されちゃったら、その国の人達はみんな不幸になっちゃうよね?王様っていうのは自分の事だけじゃなくて、国民が幸せになる事も考えなきゃいけないんだ。コクミンの意味はわかるよね?」
颯太は少し考え込むような表情をしたが、最後には「うんうん」と頷いてくれたので僕は安心して話を続けた。

「それからその国には、若くてとても美しい王妃とやんちゃな王子がいた。王妃は王様の奥さんの事だよ。王妃はとても意地っ張りで頑固だったし、王子はそれに輪をかけてやんちゃでわがままでイタズラばかりしていたから、王様はとても手を焼いていた。それでも王様はその二人の事をとても愛していたんだ。」

「王子はどんなイタズラをしていたの?」

「例えばお城の壁に王妃のお化粧道具を使って落書きをしたり、お腹が痛いときに飲む黒くて丸い薬の中にウサギのウンチを混ぜたりしていた。その薬を気づかずに飲んじゃう人を隠れて見ていて大笑いしていたんだ。それから眠っている使用人達の顔にコショウをかけたり、もうやりたい放題だった。寝ている間にコショウが鼻の中に入ると、鼻の穴がカーッと熱くなって息苦しくって目が覚めちゃうんだ。だからその日は井戸の前に使用人の行列ができたほどだった。」

「へーそうなんだ、それはひどいよね。」
そう言って颯太はくすくす笑った。これは僕が実際に高校時代に陸上部の合宿でされたいたずらだったからリアリティがあった。その時はコショウをかけた先輩に腹が立って仕方がなかったが、颯太が笑ってくれたので、少しは役に立つ事もあるんだなと思った。

「そうだよね。ただ王様は王子が可愛くて叱れなかったんだけど、王妃はカンカンになって、王子を暗い洞窟に閉じ込めたりした。王子はその後、わんわん泣いて王妃に謝ったんだ。それからも王子のイタズラ好きはなかなか直らなかったけど、王子は本当に悪いと思った時は素直に謝る事もできたし、何より明るくてみんなを元気にしてくれた。だから少し度が過ぎてもみんな最後には笑って許してくれた。生まれつき憎めない性格だったんだね。だから王子はその国では人気者だったんだ。」

颯太はまた少し、話に引き込まれたようで、「うんうん」と頷いた。

「でも、その幸せは長くは続かなかった。隣の大きな国の王様が死んでしまって、弟が後を継いで王になったからだ。その王様には跡継ぎの王子がいなかったんだ。王になった弟はとても野心家で、つまり欲張りで乱暴な人だった。しかも小さな国の王妃の事が大好きだったんだ。だから国と王妃を手に入れたくて、戦争をしかけてきたんだ。小さな国の王様は初めは、抵抗していたんだけど大きな国の大勢の軍隊やたくさんの新しい武器にはとても勝ち目はなかった。それで結局は小さな国を守るために降伏をしたんだ。」

「それから王様達はどうなったの?」

「王様は、遠い無人島みたいなところに追放された。それが戦争をやめるための条件だったんだ。そして、やんちゃな王子にはお兄さんもいたんだけど、やっぱり別の小さな島に追放された。その王子はもう立派な青年になっていたから、新しい王には邪魔者だったんだね。王様は、その王子と一緒の島に行きたかったんだけど、新しい王はそれを許さなかった。そして王妃とやんちゃな王子だけがお城に残された。」

「それはどうして?かわいそう…。ヒドクない?」
颯太は少し、目を潤ませているようだった。これからもっとヒドイ事になるんだけどな、と思いながらも僕は話を続けた。

「そうだね、本当にヒドイね。でも新しい王は王が王子が一緒にいるといつか自分に復讐にくるんじゃないかと怖れていたんだろうね。それでその国の王族はみんなバラバラにされちゃったんだ。特に可哀想だったのは、やんちゃな王子だった。王様が追放される直前までその事を全然知らされてなかったんだ。ある日、いつものように外に遊びに行ってお城に帰ってくると、見知らぬ男の人が王様の椅子に座っているのを見てすごくショックを受けたんだ。」

そこまで話をしたところで、僕のiPhoneの着信音が鳴った。画面を見ると美穂からの電話だった。それで僕は颯太に「ママから電話なんだ、ちょっと待っててね。」と言って話を中断して部屋の外に出た。

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コメント

  1. より:

    王子の家族が離散してしまう話と、颯太君の家族のこれからを暗示しているのかと、少しばかり気持ちがザワザワしますね…

    • コメントありがとうございます。2話までだとそう思われる方もいるんですね。書いていてそんな事は全く考えていませんでしたので、なるほどな~という感じでした。🐶

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