村上春樹 職業としての小説家 小説を書く エッセイ 自分独自の文体 | ねじまき柴犬のドッグブレス

村上春樹さんの「職業としての小説家」を読んでみた。

2024年
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村上春樹さんの『職業としての小説家』は、村上さんが小説家としての歩みを語った自伝的エッセイです。2015年に初版が発行され、その後新潮文庫からも出版されています。この作品では、村上さんが作家デビューから現在に至るまでの軌跡、長編小説の書き方、文学賞に対する考え方、オリジナリティーについての見解など、豊富な具体例とエピソードを交えて語っています。また、村上さんの創作方法や、小説家としての生き方についての深い洞察が垣間見える一冊となっています。

このエッセイにはデビュー作である「風の歌を聴け」を書こうとした時のきっかけ、どのようにしてオリジナルの文体を作り上げていったのか?小説家になるために必要な資質、具体的にどのようにして書いていけばいいのか?オリジナリティーについて等々が詳細に書かれていました。

村上春樹 『職業としての小説家』 | 新潮社
「村上春樹」は小説家としてどう歩んで来たか――作家デビューから現在までの軌跡、長編小説の書き方や文章を書き続ける姿勢などを、著者自身が豊富な具体例とエピソードを交えて語り尽くす。文学賞について、オリジ...

「風の歌を聴け」を初めて読んだとき、僕は確か二十歳くらいでしたが斬新な文体と世界観にすっかり虜になりました。これは、サリンジャーの「キャッチャーインザライ」を読んだとき以来の衝撃でした。それまで本といえば星新一さんのショートショートくらいしか読んだことしかなかったのですが、それからは村上さんの作品をむさぼるように読み始めるようになりました。

なぜあのような斬新な文体を作り上げられたかについてですが、本書の中で村上さんは一度日本語で書いた小説が全く面白くなかったので、英文で書いてみてそれを日本語に翻訳する作業をおこなったと書かれていました。元々洋書を原書で読んでいたような方だからこそ生まれた発想だと思いますが、常人にはちょっと思いつきませんね。

それから小説を書いている時は「文章を書いている」というよりは「音楽を奏でている」と言う感覚を今でも大事に保っていると言うことです。これは、幼い頃からジャズやクラシックに傾倒していた村上さんならではの発想でしょう。

あまり細かく書いていくと切りが無いので、今回はこのくらいにしておきますが、このエッセイには僕が小説を書こうと思う上で、知りたかったことが全て書いてありました。そして無駄なページというか余談的な要素もほとんどありません。無造作にページを開いて読んでみても、そこには僕が求めていたものが書かれていたという印象です。こういう書き方をすると、まるで聖書みたいな本ですが。(^^;)

初めのうちは村上さんはこんなに大切な独自のノウハウやスキルを提供してしまって大丈夫なのか?こつこつ積み上げてきた物を大盤振る舞いしてさらけ出してしまう事で、誰かに模倣されてしまったら後悔しないのか?となぜか僕自身がハラハラしていました。(>_<)

でも改めて感じた事は、村上さんは自分自身のうちに大切にしまっていたものを、何らかの形にして残しておきたかった、小説を書きたいという志を持つ誰かにバトンを引き継いで渡したかったのではないかと思います。実際に本書の後書きではこのように語っています。

自分が小説家としてどのような道を、どのような思いをもってこれまで歩んできたかを、できるだけ具象的に、実際的に書き留めておきたいと思っただけだ。

『職業としての小説家』 村上春樹著 新潮文庫

誰かにバトンを引き継いで渡したかったというのは僕の想像ですが、おそらく村上さんは年齢を重ねるうちにそのよう感じられたのではないかと思いました。

ただし、この本を読んで「さぁ小説の書き方が解ったから、何か書けるようになるか」というと全然、そんな事はありません。これが料理のレシピなら近い物が作れるかもしれませんが、そういう類いのものではないからです。ノウハウが解ってもやはり核になるものが自分自身の中に無ければ書けません。また核があったとしてもそれを表現するための構成力や文体や語彙、比喩などの表現力が必要になります。当たり前といえばそれまでですが。

例えるならイチローさん(大谷さんでないところが世代です…(-_-))にバッティングや守備の技術を理論的に細かく教わって、その通りにやれと言われてもできないのと同じです。育ってきた環境、長年積み重ねてきた経験と練習量、そして何よりも生まれ持ってきたセンスが必要になります。だからよく考えたら僕の心配していたことは杞憂なんだろうなと改めて思いました。

ところで僕はどうかというと、子供の頃に本はほとんど読まずテレビを見て、漫画を読んで育ってきました。聴いてきた音楽は当時ベストテンで流れていた歌謡曲ばかりです。だから小説を書くためのバックグラウンドのようなものに乏しいことを痛感しています。(>_<)もちろん、子供の頃に小説家になりたいなんて微塵も思っていませんでしたので、それを後悔はしていませんが。

小説を書くのを中断してエッセイを再開したのも、それが理由の一つです。自分の核になるものを書き切ってしまった事、またエッセイを書きながら今度は自分独自の文体や表現を模索していきたいという事。ドラマや音楽の事を書いているのは自分の内側ではなく外側にあるものに対して感じた事を素直に書いていくことで、何か新たな核のようなものが生まれるきっかけになるんじゃないかと思っているからです。今後はあるいは小説を書く機会というか書きたいとは思わないかもしれませんが。

今回は、固いですね…我ながら…。次回はまた緩~くいこうと思います。(^^;)

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