可愛い モンモンモン | ねじまき柴犬のドッグブレス

僕には可愛いが解らない

エッセイ
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僕は可愛いが解らない人間だと自覚したのは28歳の時だった。 きっかけは会社の同僚から昼休みにある漫画を見せられた事だった。 時はバブル真っ盛り、今みたいにセキュリティでガチガチという感じじゃなかったので、休み時間には社内で漫画を読んだりしても何も言われなかった。 同僚は不意に「少年ジャンプ」の見開きページを僕に見せて「これ可愛いと思わない?」 と話しかけてきた。彼は僕と同い年だけど、会社では1年先輩だったので色々と世話になっていた。 見た目は体育会系でごっつくて無愛想だったから初めはとっつきづらかったけど、 表面的に突っ張っているだけで根は優しくて素直なやつだったのでだんだん打ち解けるようになってきた。その時の漫画がこの「モンモンモン」。ごらんのようにお猿さんの漫画で後で 調べてみると「週刊少年ジャンプ」で1992年から1993年まで連載していた

ところで可愛いと思うか聞かれた時、僕は答えようがなく無言になってしまった。この漫画の何が可愛いのかさっぱり解らなかったからだ。もう一度見直してみて何か感じた事を言おうと思ったけど、やっぱり可愛いとは思えなかった。はっきり言えずにモゴモゴしていたらそのうちに同年代の社員達が自然発生してきて盛り上がり始めたので、適当な理由を付けて僕はその場から離れた。

その時、僕は「自分は可愛いがわからない」人間だと理屈抜きで解った。味覚に例えるなら「甘味、苦味、酸味、旨味」などがあるとして一番重要とも言える旨味が感じられないように、可愛いを感じる感性が欠落しているんじゃないかと。

例えば、ミッキーやハローキティやスヌーピーのような一般的に可愛いと言われているキャラクターにも興味がなくて、それをほとんど気にしたことはなかったけど、どうしてか「モンモンモン」は同じように考えることはできなかった。なぜだろう?あるいは当時は会社に入って間もなくて、仕事や人間関係に慣れようと精一杯で余裕がなかったからかもしれないと考えてもみたけど、それは根本的な問題ではないような気がしていた。

その日以来『モンモンモン』は僕にとって可愛いを表す象徴になった。今でも思い出すと軽い憧憬と挫折感(うまく言えない…)みたいなものを感じて胸がチクッとする。そして結局のところ僕は『モンモンモン』が云々より、このお猿さんが可愛いと思える自分でいたかったんじゃないかと思う。当時はよく解らなかったけど、今はそんな気がしている。

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