死後の世界 小説 解脱 ファンタジー 未練 魂 学園物語 体育授業 スピリチュアル 魂の修行 アニメ風作品 女子高生 転生キャラ | ねじまき柴犬のドッグブレス

犬のかたちをした記憶-第三章:解脱なんてムリ!体育の授業は魂のマラソン!?-

2025年
Pocket

キドが授業の概要を一通り説明し終えると、ふと思い出したように黒板の下の隅に『体育』と書き加えた。

「それから、『体育』の授業もある」

そう言って、キドは教壇の前に立ち直し、低く、抑えた声で語り始めた。

「お前たちには、もう肉体はない。つまり本来であれば、どれだけ身体を動かしてもエネルギーは消費されず、疲労も感じないはずだ。……だが、ここに来たばかりの者は、まだその感覚を手放せていない。特に、未練が強いやつほどな」

言葉の最後に、わずかに口角が持ち上がった。

「その感覚を捨てること。それが、解脱への第一歩だ」

キドは満足げにうなずくと、手元の書類を閉じた。

気がつくと、俺たちは校庭のような場所に立っていた。着替えた記憶もないのに、いつの間にか体育着姿になっている。周囲には高い金網があり、校舎の影が静かに落ちていた。

その中央に、一人の男が立っていた。細身で長身。悠然とした姿勢のまま、こちらを見つめている。

「私が体育を担当する。私の事はシナプスと呼んでくれ」

声は低く、静かだったが、不思議な響きがあった。

「わたしは、君たちを解脱へと導くいわば“触媒”のようなものだ」

彼は、濃紺のマントを肩にかけ、黒のタートルネックに洗いざらしのブラックジーンズ、そして膝下まである金具つきの黒いブーツを履いていた。肩まで伸びた黒髪に、鋭く切れ長の目。

体育教師、というよりは……そう、こいつはまるでパンクバンドのボーカルだ…。

(なんだ、こいつ……)

そう思っている間に、彼は唐突に声を上げた。

「まずは走れ。校庭の端から端までダッシュだ。1着になったものから、終了とする」

彼の目は一切の感情を排し、ただ命令を淡々と下している。

「これは……修行だ」

何かの冗談かと思ったが、彼は一切、クールな表情を崩さずそう言った。その威圧感に圧倒され、生徒たちは渋々と走り始めた。

三往復を過ぎたあたりで、俺はもう息が上がっていた。意外なことに、他の連中は軽やかに足を動かしている。俺だけが取り残されている気がした。

(……疲労を感じない、だと? 嘘だろ。めちゃくちゃ苦しいじゃないか)

それとも、これも「未練」のせいなのか。

足が動かず、とうとうその場に座り込んでしまう。

空を見上げると、白い雲がゆっくりと流れていた。

「なに? 高志さん、もうバテてんの? 未練タラタラなんじゃない?」

明るい声が耳に飛び込む。見ると、沙梨が笑っていた。さっきのダッシュで軽々とトップを取っていた彼女は、まったく疲れた様子を見せていない。

「……うるさいな。俺、現世でも走るのは苦手だったんだよ……」

「えー? 現世とか関係ないってば。だって体なんて、もう無いんだからさ」

沙梨はあっけらかんとそう言って、俺の背中を軽く叩く。

「集中して、ほら、解脱〜、解脱〜」

からかうように笑うと、彼女は水を飲むために水道の方へと小走りで向かっていった。

「……やっぱ、あいつちょっと性格悪いな」

高志は息を切らせつつ、ぼやいたが、なぜかその表情には柔らかな笑みが浮かんでいた。

その瞬間、視界の端が陰った。

「貴様、何を休んでいる!」

声の方を見ると、シナプスが腕を組み、見下ろしていた。

「これは修行だ。体の感覚が消えるまで、走り続けろ!」

(……マジかよ)

俺は思わず天を仰いだ。すぐ近くで、沙梨の吹き出す声が聞こえる。

校庭には、軽やかな笑い声と、魂が生み出す不思議な足音が静かに響いていた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました