地下鉄 トンネル 小説 | ねじまき柴犬のドッグブレス

ピース(断片)を探して(前編)

2023年
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これは僕が学生の頃に書いた小説を手直ししたものです。そのため、今の時代にそぐわない表現が多少出てきますが、ご了承ください。(^_^;)

夜の地下鉄というのは、2重の闇に覆われている。トンネルの中は闇。電車が地上に出ても、ネオンサインや天気の良い日には星が瞬いてはいても、やはり闇だ。もちろん、それが悪いという訳ではない。あらゆるものに湿度を与え、柔らかく包んでくれる夜もある。そして、憂鬱な夜があるように憂鬱な朝もまたある。夜の地下鉄に欠点があるとすれば、それは物事を深く考えすぎてしまう事だ。そんな時、僕の頭の中では、ピース(断片)が真っ白なジグソーパズルが始まる。初めのうちは順調だが、ある程度進むと、必ず足りないピースが出てくる。仕方なく、もうすでにはめ込んであるピースをはずして、それを空白にはめ込む。そうするとその部分にまた、新しい空白ができる。また違うピースを外して、そこにはめ込む。また新しい空白。不毛な作業が繰り返され、完成する事はほとんどない。

その日僕を捉えたのは、過去の記憶のピース(断片)だった。きっかけは、隣に座った同じゼミの女の子が本を読み始めた事だった。僕は大学のある私鉄の駅からいつものように地下鉄に乗り換えたが、そこでオカダさんという同学年で同じゼミの女の子とたまたま一緒になった。帰る方向が同じだったので同じ電車に乗ったが、普段、あまり話した事がなかったので、最近のゼミの話が終わるとすぐに話題が途切れてしまった。僕は人見知りが激しかったせいか一人で帰るのが好きだったが、無視するわけにもいかず、あれこれと話題を考えていたが彼女はそんな僕にはお構いなしに、普段はかけていない黒いフレームの眼鏡をバックから取り出し、おもむろに本を読み始めた。退屈な男だと思われたかなと思いちょっと傷ついたが、そのほうが自分も気が楽だと思い直した。やがて車両が地下に入り2重の闇に覆われると、突然強い睡魔に襲われた。これが失われたピースを探すための僕のジグソーパズルの始まりだった。

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