タバコ 煙草 オイルライター ZIPPO | ねじまき柴犬のドッグブレス

ハートに火を点けて 1 2029/12/28 痛恨のミス

2023年
Pocket

・2029年12月28日(金) 

「さあ、ボッと燃やしてしまおうぜ、タダノ君。時間はまだ十分にある。」

僕の中に残っていた、まだやんちゃだった頃の僕が語りかける。その声に押されてオイルライターのカバーを押し上げると、「カキーン」という反響音とともに懐かしいオイルの匂いが一気に鼻をついた。目の前には今食べたばかりのコンビニ弁当の容器がある。それを試すには絶好のタイミングだ。

僕は海外の友人から届いた宅配便の箱を開けた。外箱はカモフラージュのため、わざわざAmazonの箱にしてもらった。ガムテープを剥がし、おが屑のようなビニール製のクッション材の底の方を掬ってそれを取り出した。そのツルツルとしたパッケージの上部にあるビニールの開封口を一周させて勢いはぎよく取った。

そして包装紙の一部を引き裂くと左手で軽く持った。右手の人差し指で箱の上部の端をトントンと叩くと、中の一本が飛び出してくる。これは何か原理だったろうか?思い出せなかったが、まぁいいやと思って僕は口に咥えた。オイルライターの着火用のヤスリを回すとシュボッという音とともに小さな炎が立ち上った。それを炎に近づけると心地よく紙と葉のチリチリと燃える音がした。

僕は少しだけ、吸い込んでみる。肺の辺りに「くっ」となる感覚があり、煙を吐き出すと懐かしい香りが部屋の中に一気に充満した。

少し頭がボーとしたが、その後に不思議な感覚に包まれる。これだよ、これ。人類史では古くは15世紀の終わり頃から行われていた、原始的な行為。19世紀のイギリス社会で紳士的な風習にまで格上げされていたものだ。多少の罪悪感はあったが、その後ろめたさにも逆に僕の興奮は助長された。

ただし、その至福の時はインターフォンの音によってにわかに中断された。無視する事もできたが、また海外の友人から宅配便が来たのかと思うと待ちきれなかった。それで僕は止むを得ず例のものを空になった缶コーヒーの飲み口で揉み消して、中に入れた。じゅっという懐かしい音がした。まだ充分に味わっていなかったので残念だったが仕方なかった。

僕は窓を急いで解放して、丁寧にうがいをしてから荷物を受け取りに行った。でもドアを開けて見ると外にいたのは、排水溝の清掃員だった。できれば中に入らせてもらって清掃をさせて欲しい、10分で良いですからと頼まれた。僕は全く想像もしていなかったので驚いたが、そういえばチラシのようなものが入っていた事を思い出した。

今、在宅勤務中である事を理由に断ったが短時間で終わるし、数年に1回の事なのでと粘られ断るのに時間がかかった。在宅勤務は嘘ではなかったがそれ以外に、例のもののため、中に入られるのはまずかった。

清掃員はブツブツ言っていたが、なんとか帰ってもらった。僕はその後仕事を再開し、今年最後の仕事を黙々とこなしていったが、頭の中では早く終わりにして例のものを心置きなく吸うことしか考えていなかった。

ところがこの時に僕は痛恨のミスをした。席から離れている間に、ちょうど昼休憩の時間が終わり、パソコンが自動的にオンラインに切り替わっていた。そのため、僕のいない無人の席にはあたりに薄く漂う煙と例のもののパッケージがしっかりと映り込んでしまっていた。

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
人文ランキング

コメント

タイトルとURLをコピーしました